木許 雅則 准教授
Laboratory
音響通信系でのノイズやエコーをリアルタイムに除去する適応ノイズ・エコーキャンセラ、混ざりあった音声を元のそれぞれの音声に分離・再生するブラインド音源分離等の研究を行っています。これらの技術の基盤は適応信号処理と呼ばれ、その中核である適応アルゴリズムの収束性の高速・安定化、動作に必要な演算量の軽減化、また、エコーキャンセラやアクティブノイズコントローラ等の応用システム開発や、それらの多チャネルへの拡張、指向性スピーカによる消音点の移動制御等のテーマに取り組んでいます。また、ディジタル画像・音響データの改ざん検知を目的とした電子透かし手法の開発なども並行して行っています。
騒音に対して、それを打ち消す制御音(騒音と同振幅逆位相となる音)をDSPにより生成し、それらを物理的に干渉させることで騒音を打ち消す技術がアクティブノイズコントローラ(ANC: Active Noise Controller)です。一般的なANCの構成では、制御音スピーカから消音点マイク間の経路(以下、二次経路)情報が事前に必要となります。それゆえ、動作中に二次経路が変化した場合には消音性能が不安定、もしくは消音不可となります。本研究室では、この二次経路の事前計測を必要としないANC構成の開発、およびそれに対応した安定かつ高速に消音が可能な適応アルゴリズムの開発を行っています。また、昨年度より超指向性を持つパラメトリックスピーカを用いたANCシステムの開発を行っています。このスピーカから発せられる音波は、極めて直進性が高いため、消音点周辺の騒音のみを打ち消し、それ以外の地点への影響を極めて小さくすることが出来ます。また、音波の直進性により、反射や残響音の影響が殆ど無くなるため、消音点の移動により生じる二次経路の変化に柔軟に対応し、その追従が可能なシステムが構築可能です。
ブラインド音源分離は、複数の音源からの信号を複数のセンサ(マイクなど)でそれらの混合信号として観測できるとき、その観測信号のみから源信号を分離して取り出す技術です。源信号間が独立であるということと観測される混合信号のみから、各チャネルの源信号を正確に分離し再現することは大変難しく、かつ、それらのアルゴリズムは高次統計量を用いるなど、非常に複雑で多大な計算が必要となります。そのため、低演算で実用的な分離精度をもつ手法の開発が望まれています。本研究室では、近年注目される群知能技術である粒子群最適化法(PSO: Particle Swarm Optimization)をブラインド音源分離に応用した手法について研究を行っています。比較的少ない計算量でのアルゴリズムの実現や、実時間での分離を可能とする評価関数を構築することにより、適応信号処理に基づく既存手法に対して処理時間および分離精度・速度の向上を実現しています。